|
最近、種々の掲示板などで温暖化懐疑論なるものを目にすることがあります。 温暖化懐疑論は全く事実無根であり、現実に人為によって温暖化が進んでいることは確実ですが、それ以前に、気象学の基礎として、誤解されていることがひとつ。 温暖化すれば積雪が減り、海氷が減り、積雪面積が減る。 もちろん、基本はそうですし、現実に統計的に有意に、しかも極めて顕著に起こっています。 しかし、それに伴ってこんな誤解が広まっている懸念を感じます。 積雪が増え、海氷が(主として南極で一時期)増え、積雪面積が減っていない地域があるのだから、温暖化はしていないのでは・・ これは実は完全な誤りだと言わざるを得ません。 このような誤解が一般人に広まっているのはまことに遺憾であり、誤解を解くべく、簡単に解説したいと思います。 IPCC第4次評価報告書、33ページ目に寄れば、『積雪面積はほとんどの地域で減少しており、春季と夏季に顕著である・・・北半球の積雪面積は11月と12月を除く全ての月で減少し・・・積雪の減少しているところでは、気温がしばしば支配要因である。一方、積雪が増加しているところは、ほとんど降水量の増加が要因である・・・』 また、35ページ目に寄れば『北半球春季の積雪面積が1966年以降10年当たり約2%の割合で減少・・しかし、秋季や初冬にはほとんど変化がない。多くの場所で、春季の減少は、降水量が増加しているにもかかわらず起こっている。』 温暖化に否定的な見方をする人や、科学的知識のない人は、北半球の積雪面積は晩秋から初冬では減っていない。南極の雪氷圏は(一部だが)拡大傾向にもあるではないか?という疑問を持たれる人が大変多い。 そもそも積雪や雪氷圏とはどういうものか、きちんと理解していないと、このような誤解を招いてしまう。 また "温暖化する=雪氷圏の大幅な後退" 、というように、硬直的な考え方だけしか持っていない人は、雪氷圏が本来持つ特性を無視して温暖化懐疑論に走ってしまう。 そもそも積雪域、雪氷圏は基本的に0℃以下、氷点下の世界でのみ存在するものであり、気温が0℃を超えて推移すれば大幅な後退を示す。では、0℃以下の世界ではどうなるか?その前に大気中に含まれる水蒸気の含有量は、気温が下がれば下がるほど小さくなる。このことは、気温が低ければ低いほど降水量が減少し、必然的に厳寒の地とは言え降雪量も少なくなる。逆に言えば氷点下の世界という条件の下では、気温が高ければ高いほど大気中に含まれる水蒸気の含有量が増加し、降雪量もそれに伴って増加する。 たとえばもともと気温が0℃だった所が、温暖化によって3℃になったとしよう。+3℃温暖化している。この温暖化に伴って降水量は増加する可能性が高い。しかしながら0℃ならば積雪する気温であり、凍結する気温であるため、降水はほとんどすべて積雪となってその地に降り積もる。ところが温暖化によって3℃の気温になれば、(湿度など諸条件によって異なるが)みぞれや雨になることが多く、一般にはどんなに降水量が多くても積雪することは少ない。このような地域は温暖化によって積雪面積は縮小し、雪氷圏は大幅な後退を示すことになる。 ところが今度は、こういう場合を考えてほしい。 気温が-8℃だった所が、温暖化によって-5℃になったとしよう。+3℃温暖化している。この温暖化に伴って降水量は増加する可能性が高い。そして-8℃の時と比べて、-5℃の時の方が当然降雪量そのものが増加する可能性が高い。-8℃だろうが、-5℃だろうが、降ってくるのは雪である。このような『温暖化してもなおも0℃以下を保ち続けている厳寒の地』に於いては、むしろ温暖化によって大気中の水蒸気含有量が増加し、降水活動が強化、そのまま降雪量の増加となる。つまり温暖化に伴って積雪面積や雪氷圏が拡大する。 先のIPCCの記述の中にある、晩秋から初冬の北半球の陸面は、例え温暖化したとはいえ、0℃を超えない状態での温暖化の地域が多いために、積雪面積は減少しないのである。一方で春先は、北半球陸面は秋季に比べて高温で、温暖化によって0℃をまたいで高温となり、降水が雪から雨に変わってしまうため、積雪面積の大幅な減少というシグナルとなって現れるのである。 北極の海氷融解シグナルも同様で、 晩秋から初冬は一番温暖化によるシグナルを現しにくく、海氷面積の減少率が小さくなる。 気温が0℃をまたいで高温となる晩夏から初秋に掛けて、もっとも急激に氷が解けることになる。 以上から分かるように、秋の積雪面積が減っていないことが、温暖化を否定、緩和する根拠には全くならない。それどころかこのような季節による振る舞いの違いそのものこそ、温暖化が進行していることを最も合理的に説明できる根拠となるのであり、この辺を全く逆の発想で捉えている人がいるようなので注意を促したい。 さらに言うと南極の雪氷圏はむしろ微増する傾向にあるのは、北極圏よりもさらに低温で、温暖化した夏季ですら0℃を下回る地域のため、降水量の増加が関係している。さらには極環状モード(北半球で言う北極振動のようなもの)が、強化傾向を示し、温暖化によって気温の緯度較差が小さくなったことにより傾圧性が小さくなり、南極周辺に寒冷な極渦が卓越しやすい状況が生まれる。中緯度に寒気がおりにくくなった分、南極周辺に小さくまとまって寒気の渦が出来やすくなることが、温暖化モデルでも示されており、現実にも観測されている。このような温暖化による応答が、南極周辺の一部地域の寒冷化と、寒冷低気圧による降雪量の増加をもたらし、また0℃以下の条件で比較的温暖になった地域では温暖化による降雪量の増加をもたらして、南極の雪氷圏がむしろ微増する傾向を作り出している。つまり南極で雪氷が微増することも、温暖化による応答の現れである。 日本で最も温暖化による積雪減少のシグナルが現れやすいのは、温暖化によって0℃をまたいで高温になりやすい北陸平地である。私が金沢の積雪1メートルにこだわる理由はそこにある。北海道や本州中部山岳の積雪量にこだわっても、温暖化のシグナル検出という意味ではそれほど大きな意味はなく、監視に有効なのは北陸平地である。というか今年の12月はその本州中部山岳ですら、積雪が全くないという異常事態だ!!これはもう、気温そのものが高いというより、温暖化によって冬型の気圧配置そのものの頻度が落ちているということであり、今まで以上に深刻な事態と捉えねばならない。 |
| << 前記事(2008/12/17) | トップへ | 後記事(2008/12/22)>> |